ドラキュラの復讐

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庭師ジェームズ殺人事件

CM:皆さんはヒリンガム・エステートに戻って来ました。一日中、廃屋を探険していた汚れを洗い流して、食事をして明日以降の捜査に備えて就寝した所です。
スティーヴ何も起きずに朝になりますか?
CM:残念ながら……。真夜中に、玄関テラスから悲鳴が上がりました。おそらくはヒリンガムのメイドの悲鳴でしょう。
トム悲鳴の上がったところへ行きますよ。ロザリオと武器を持って。

 入り口の前の血だまりに、ナイトシャツを着た老人が倒れている。まるで死体が引きずられたかのように、テラスの向こう端から血だまりまで深紅の小道が続いている。寝間着のエヴェットは喘ぎを漏らして、現場から走り去る。

ニコラス「うっ!!」。被害者に見覚えはありますか?
CM:知覚力の一般判定をしてください。
一同:成功。
CM:昨日の到着時に整列してあなたたちを出迎えてくれた従業員の内の一人です。確か、庭師だと紹介されたのを思い出します。
ニコラスどういう死に方をしていますか? 首の骨を折られている?
CM:耳から耳まで、首をすっぱりとやられています。おそらく凶器は刃物でしょう。綺麗にすっぱりと、刃物で咽喉もとが切り開かれています。

 ズボンの中に入れたナイトシャツで、ドーズは口を覆っている。「警察に電話しましょう」と彼はしわがれ声で弱々しく言って、ホールにある電話のほうへ行った。

CM:「庭師のジェームズが何者かに殺害されたようですので、警官を派遣してください」と、ドーズはどうにか平静を保っているようです。さすがに筆頭執事ですな。
スティーヴと言うか、ウェザービーは出てこないの?
CM:ウェザービーは出てこないねぇ。
スティーヴふ〜ん?
CM:皆さんを出迎えた、あのシーンしか彼の顔を見ていません。
スティーヴ「ドーズ、ウェザービーさんは? この屋敷にはいるの?」。
CM:(ドーズ)「ウェザービーさんは体調が優れないので床に伏せって私室にいらっしゃいます。ドアの外からお声かけした時は返事がありましたので」。
ニコラス……具合が悪いから寝込んでいる? これだけの事が起こっているんだから、寝ているわけにはいかないのでは?
トムう〜む。庭師は屋外で殺されたんだっけ?
CM:殺されて、引きずられたような血の跡がありますね。別の場所で殺されて、わざわざ玄関テラスにドサリと置かれたという状態です。
ニコラス血の跡を追えばどこで首を切られたかは分かるかな?
CM:調べるなら<捜査>技能でどうぞ。一般判定で良いです。(全員成功)すると、階段の向こうの茂みの中に血のついたメスを発見します。
ニコラスメス?
CM:メスの柄には「R.S.」というイニシャルが彫り込まれています。
スティーヴん〜? セワード医師?
CM:ロバート・セワードのイニシャルは「R.S.」ですな。
一同:……。
CM:使用人たちから「あの人たちが来てから、何か恐ろしい事件が立て続けに起こっている」というオーラが感じられます。
ニコラス確かに。「い、いや、俺たち関係ないから!」と怪しい弁明を始めます(笑)。
CM:(使用人)「ふんーふんーふんー。分かっておりますよ、サー」。
一同:(笑)。
CM:しばらくすると警察が到着して、第一発見者のメイドから事情を聞いて、それからもちろん皆さんもいくつか質問をされます。それが終わっても、ただでさえ真夜中なので、これから何か行動するって訳にも行きませんな。
スティーヴそういうことで、また寝た。
CM:翌朝、改めて警官がやって来ます。「昨晩は大変でしたねぇ」と言いながらやってきたのはバーロウという名前の警官です。バーロウはスタッフも含めて、あなたたち全員に死亡推定時刻である真夜中のアリバイを聞きます。型通りの質問ですね。
スティーヴ呼び出されたスタッフの中にウェザービーはいますか?
CM:ウェザービーの姿は見えませんな。
スティーヴ人が殺されているんだから、体調が悪くても質問は受けなくてはならないと思うのですが。
CM:ドーズが「ウェザービーさんは体調を崩していますので、彼の私室で事情を聞いてはいただけませんか?」と言うと、バーロウ警官は「分かりました。後で部屋の方へ伺いましょう」と返事をします。
 スタッフを持ち場に戻らせると、バーロウ警官はあなたたちには残るように指示します。(バーロウ警官)「あなた方に残っていただいたのは他でもありません。お聞きしますが、精神病院に入院しているケンジントンとあなた方とは、どういう関係なのでしょうか?」。
スティーヴ「は? はぁ、彼の脱走騒ぎの様子を見に行った時に、襲われたので撃退したと言いますか……」。
CM:(バーロウ警官)「なるほど。実は、まぁ、狂人の言う事ですから信頼はできないわけですが、“ヒリンガムにいる客”と彼とで殺人を企てたのだと、そのようにケンジントンは話しているのです」。
一同:はぁ!?
CM:(バーロウ警官)「ケンジントンによると、殺人をスムーズに行うために、セワード医師の医療鞄を入手したと、そのようにも言っています。事実、ケンジントンの病室の窓の下の植え込みから、セワード医師の鞄が発見されました。病院の職員に確認させた所、メスが1本なくなっていたそうです」。
スティーヴ「その1本は昨夜の殺人で使われた、あの?」。
CM:(バーロウ警官)「間違いないでしょう。イニシャルの入った揃いのメスですからな」。
スティーヴ「ははは……。残念ながら、我々には彼の言っている事が何を意味するのか、まったく……」。
CM:(バーロウ刑事)「セワード医師の殺害時刻にあなた方のアリバイがあることはこの屋敷のスタッフから確認が取れていますので、ケンジントンと共謀して殺人を犯すようなことがないことは確証が取れているわけですが、なぜケンジントンがそのような事を言い出したのか分からなかったので、一応確認をしたまでです」。
ニコラス「“ヒリンガムにいる客”と言っているのなら、もしかして、この屋敷に我々以外の客人がいるのかもしれませんね」。
CM:(バーロウ警官)「はあ……? あ、そうそう、そういえば、セワード医師はあなた方のお知り合いという事でしたよね?」。
トム「そうですが?」。
CM:(バーロウ警官)「亡くなったセワード医師のサイフの中に、このようなメモがあったのですが、もしかしてあなた方宛てではないでしょうか?」。

 これを見つけたどなたかへ:
 私が死んだ場合、この手紙をロンドンのパーフリートにあるヒリンガム・エステートにいるボールトン卿の客人に届けていただきたい。
 伯爵は我々の中にいる! この汚らわしい獣が我が友人たちの命を奪った事を知っている――そして今度は私の番だ!
 私の患者であるケンジントンに用心せよ。彼は伯爵の召使いかもしれない!
 カーファックスがドラキュラの住処だ。頼む、そこへ行ってあいつを破壊してくれ。日中にあいつを探すんだ、あいつはその時が一番力が弱い。夜には気をつけろ――君たち自身と愛する女性を守るんだ! 君たちは恐怖の始まりとなったルーシー・ウェステンラの家に宿泊しているんだぞ。神が君たちと共にありますように!

 ロバート・セワード

CM:なお、ルーシー・ウェステンラは原作に登場する、ドラキュラに殺された女性の名前です。
ニコラスつまり、ここが?
CM:そうです。ヒリンガムはウェステンラ館です。



精神病院からの使い

CM:バーロウ警官が立ち去ると、入れ替わりに少しよそよそしくなったドーズが現れます。「皆さんにお客様が見えておりますが」。すると精神病院の付添士だと分かる服装をした若い男がホールを横切ってこちらに歩いてきます。
スティーヴ初めまして、かな?
CM:(付添士)「ケンジントンを連れ戻すのに協力をいただきまして、その節はありがとうございました」。
トム「いやいや」。
CM:(付添士)「実は重要な伝言があるのです。ケンジントンは皆さんのような人たちを求めていました。彼が言うには、彼は皆さんが知りたがっていることを話せるのだそうです」。
一同:……?
CM:(付添士)「狂人の戯言だとは思うのですが、伝言を届けないと彼がひどく暴れますので、もしできましたら、彼に顔を見せていただけると我々としても助かるのですが……」。
スティーヴセワード医師の鞄の件もありますし……行ってみますか?
トムうむ。情報が手に入るかもしれないし。
CM:では付添士が病院まで案内してくれます。

 掛け金がかけられたドアが廊下の両側に並んでいる。何かが通り過ぎるたびに、右側から手が伸びてきて掴もうとする。反対側からは「助けてくれ……」という泣き声が聞こえてくる。うめきが声を揃えて大きくなり始める――ゆっくりと死に行く動物がたてる、恐ろしいうめきだ。
 ついに付添士はケンジントンの病室にたどり着く。廊下にあった他のものと同様に、外から掛け金がかけられた頑丈なドアだ。付添士は観察窓から中を覗き見る。すぐに彼は振り向いて、こう言う。「大丈夫です、彼は十分に落ち着いているようです」。彼は後ろに下がって、掛け金を外して、ドアを開く。
 中にはこちらに背を向けて白い服を着た男が座っている。脂っこく固まった茶色の髪が肩くらいにかかっている。ゆっくりと彼は振り向いて顔をこちらに向ける。彼の目は狂気の表情を湛えて爛々と光っている。下唇にはクモの足がついていて、彼は舌でそれを舐め取った。
 そして彼の表情が奇妙によそよそしくなる。「やったぞ」と彼は淡々と言った。そして部屋の隅を見つめるためにそちらへ顔を向けた。

CM:付添士が「ケンジントン、お客さんだぞ」と言っても、彼は何の反応も示しません。ブツブツと何かを言っているということもなく、ジッと部屋の壁を見つめています。
ニコラス俺たちをここへおびき出す罠か?
スティーヴコイツが催眠術にかかっているかどうか、分からないかな?
CM:なるほど。狂人だから精神的にその辺の判断は難しいと思うけど……。くららが<催眠術>で鑑定してみましょう。(コロコロ……)00。ファンブルって奴ですかね。(くらら)「これは……トトメス・ザ・エルダーの仕業ね」。
ニコラス「まだ死んでいなかったのか!?」。
トム(笑)。
CM:ケンジントンは石のように固まって動きません。部屋の壁を見つめたまま、何の反応もしません。付添士はばつが悪そうに部屋の天井を見回しています。
スティーヴ十字架を見せても反応はない? 「う〜む。分からん!」。
CM:付添士は深々と頭を下げます。「大変申し訳ありません。どうやら、何か勘違いしていたようです」。
スティーヴ「いえ。狂人ならこんなものでしょう」。
CM:では皆さんが部屋から出る時に、ケンジントンは振り返りもせずにこう言います。「次はクモを持ってきてくれよ!」。クモはケンジントンの大好物だと言う事を付添士が苦笑い交じりに教えてくれます。
ニコラス「クモを持ってきてくれっていうのは、俺たちにかい?」。
CM:ケンジントンはまるで反応することなく姿勢を変えません。

スティーヴ日が暮れる前にヒリンガムへ帰ります。ウェザービーの私室に行ってみましょう。あるのは1階ですか? ノックして呼びかけてみます。
CM:「はい?」と言って青白い顔をしたウェザービーが出てきます。
スティーヴ「体調はどうかね?」。
CM:(ウェザービー)「お客様にそのような心配をさせて、大変申し訳ございません。私は大丈夫ですので、お気になさらずに滞在をお楽しみください」。
トムう〜む。
CM:(ウェザービー)「今日は少し体調も良くなったので、部屋で書類仕事をしておりました」。
ニコラス部屋の中は覗けるの?
CM:覗けますが、かなり殺風景で、何か明らかに異常なものは見て取れません。
スティーヴ「医者にでも行ったほうが良いのではないか?」。
CM:(ウェザービー)「ご心配にはおよびません。自分の身体のことは自分で良く分かっておりますので。それに、以前にも同じような事がありましたので、医者から薬を貰ってあります。全てはドーズに任せておりますので、何か要望があれば彼に言ってもらえれば可能な限り対応させていただきます」。
トム「ところで、我々が使っている部屋の反対側にある部屋は何に使われているのかね?」。
CM:(ウェザービー)「あそこはこの屋敷の昔の主の私室でした。現在は物置や作業部屋として使っております。お客様が使われるようには設えておりませんので、お見苦しい所をお見せする事もないと考えて施錠してあります」。
ニコラス「ボールトン卿がここを買われる前は、持ち主は誰だったのでしょうか?」。
CM:(ウェザービー)「ゴダルミング卿です」。
ニコラス
スティーヴ最近亡くなった方ですね。
CM:ゴダルミング卿が亡くなる前にはボールトン卿の手に渡っていたようです。
ニコラスこれで、あと調べていない場所と言ったら、このヒリンガムだけだよね。「我々はボールトン卿からこの屋敷を自由に使って良いとの許可を受けているのですが、前の持ち主のことも調べたいので、鍵の掛かっている部屋にも入りたいのですが」。
CM:(ウェザービー)「そういうことでしたら、まぁ。しかし、散らかっている部屋があることは先にも申し上げたとおりですよ」。
スティーヴ「分かっています。スタッフの邪魔をするつもりはありませんので」。
CM:ではウェザービーは鍵束を渡してくれます。「スタッフの私室の鍵はお渡しできませんが、ご了承ください」。
スティーヴ「分かりました。ではお大事にしてください」。
CM:今日はこのあと食事をして、就寝ですね。

CM:真夜中。コンコン、コンコンコン。ノックの音。(ドーズ)「遅くに申し訳ございません、サー」。
一同:ん〜?
CM:(ドーズ)「このような真夜中ですが、あなた方を訪ねてきた者がいるのですが」。
スティーヴ「誰ですか?」。
CM:(ドーズ)「おそらくは精神病院のスタッフでしょう」。
一同:またか(苦笑)。
CM:(ドーズ)「精神病院の看守ではないでしょうか? 緊急の用があると申しております。何卒、急いで来ていただきたいのですが。最近の事件で屋敷のスタッフも震え上がっており、これ以上彼らを怯えさせたくはないのです」。
スティーヴ「分かりました。我々が対応します」。
CM:(ドーズ)「お客様は1階のロビーでお待ちです」。
スティーヴ着替えていきましょう。装備なども確認して。
CM:ロビーでは見たような顔の看守がいます。皆さんを見ると「ケンジントンです。急いできてください。ついて来てください」と言って、外へ歩き出そうとします。
スティーヴ「警察には?」。
CM:(看守)「いえ、脱走しているわけではなく、ただ騒いでいるのです。発作を起こして、皆さんを呼べと暴れているのです」。
ニコラス「このような時間に?」。
CM:(看守)「放っておけば、患者は自分を傷つけてしまうかもしれません!」。
ニコラス非常識だし、今日の昼にも呼んでいながら何も用事はないみたいな態度を取られたしなぁ。
スティーヴ虎穴に入ってみますか?
トム虎穴というか……。基本的に彼との遭遇では何も起こっていないので、なんとも。
ニコラス行く理由がないんだよねぇ。
スティーヴ確かに、行かなければならない理由は希薄ですね。
ニコラス罠なんだと思うんだよね、常に。
CM:(看守)「急がないと!」。
一同:う〜ん。
スティーヴ「担当の医師のお名前は?」。
CM:(看守)「担当の先生は――」と言いかけた所で、プルルルッと彼の携帯電話が鳴ります。(看守)「失礼。……私だ。……うむ、うむ、そうか。(電話を切る仕草)夜分遅くに大変お騒がせしました。もう、病院に来ていただかなくても良くなりました。ケンジントンは死にました」。
スティーヴ「ああ、そうですか」。
ニコラス死んだ?
一同:ふ〜む。



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