trouble 4●アイルランドでストライキ part 2

 鉄道のストライキなんて、ただの予告編にすぎなかった。アイルランドからパリ経由で帰国しようというその日、友人に空港まで送ってもらい、大きくハグしてお別れをし、すがすがしい気持ちでカウンターに。

「チェックイン、お願いしまーす」
とチケットを見せながらカウンターのお姉さまに言うと、
「あら、残念。今日はパリの空港がストライキで、パリ行きの便はどの航空会社も欠航よ」
だって。

 がびちょ〜ん。どーじだらいいのー。重くのしかかる不安、焦り、恐怖…。
 いや、しかし焦っている場合ではない。こういうときこそ冷静にならなければなりません。どのみち今日アイルランドを出国できないのなら、明日への振り替え作業をしなくてはならないのです。

 見まわせば、各航空会社のカウンターはその手続きで長蛇の列が。出遅れてはならないっ!と、急いで列に繋がりました。パリから日本に戻る便は夜の1便だけなので、明日のそれに振り替えてもらえばいい。ということは、<ダブリン→パリ>は今日乗るはずだった便と同じ時間、もしくはそれ以前の便に振り替えてもらえばいいわけです。長いこと待って、待って、待って…ようやく私の番に。

「これ、明日の同じ便かそれ以前の便に振り替えてください」
と申請する私に、カウンター職員の冷徹な一言。
「すいません、その便はもうすべて満席です。それ以降ならお取りできますが…」

 勘弁してよー…と更に焦る私。同じ便までに乗らないと、乗り継ぎの日本行きの便に乗れないことを力説。たどたどしい英語で頑張ったさ。だって私は悪くない。すると、ホットラインでなにやら話し出す職員。ついに
「OK。何とか席を確保しました」と職員。

 なんだよー、あるなら最初から出し惜しみしないで出せよー。やっぱり自分の意志はきちんと主張しないとね。勝ち誇った私は替えのチケットを受け取り、今度は日本行き便について考えました。今日の便がキャンセルなら、明日に変更してもらえばいいやと軽く考えたんですけど、これが甘かった。航空会社のパリ支店への電話が
ちっとも繋がらず(みんな確認してたんだろうなあ…)、近場でロンドンの支店に電話してみました。

「今日、空港がストライキってことは、東京行きの便も欠航ですよね?」
「いえ、予定通り離陸いたします」

 ……恐るべし、日本企業。現地のストライキなどものともせず運行するらしい。以下は私と電話に出た女性オペレーターとのやりとりです。

「ええっ? じゃあ私はどうしたらいいんですか? ストライキでパリに今日は行けないんですよ」
「ロンドン経由でパリに行けませんでしょうか? とにかく当社の便は運行するのですから」
「無理です。今からでは絶対間に合いません。明日の便に変更したいんですが」
「お客様の購入されたチケットは、変更がききません。それは最初からご存知と思いますが」
「いや、でも、私の個人的な理由で乗り遅れる訳じゃないんですから、不慮の事態なんですから変えていただいてもいいじゃないですか!」
「でも、私どものせいでもないですよね?」

 ここで私は壊れました。そりゃ確かにあなたたちのせいじゃないですよ。でもねえ、遠い異国で同じ国の同胞が難儀してるのにその言いぐさはないでしょう?

「じゃあ、私にどうしろとおっしゃるんですか?」
「はい、チケットを改めてお買い求めください。片道ン十万です。もっとお安いものでしたら、パリ市内の旅行会社で格安チケットをお買い求めいただくといいと思います。いかが致しますか?」

 はぁっ? またチケットを買えと? しかもそんな高額で? パリ市内に行けば安いのがある? 市内に行ってる時間なんかないですよ。なんと非現実的な提案。しかも機械的な無感情さ。怒り心頭の私は、後でかけ直す旨を伝えて切りました。

 確かに私のチケットは変更不可能です。私のわがままかもしれません。でもこの時、私の不屈の精神はメラメラと燃えさかったのであります。あんな非情な人に、私は負けないっ! 見送りに来てくれた友人に現在の状況を電話で伝えると、怒られました。
「そんなのあなたは悪くない! もっと主張しなさい!! あなたがもしチケットを買ったら、私はあなたに対して怒るわよ!」

 やっぱりね、そうだよね、私だって悪くないよね(ホントかな?)。この火に油を注ぐ応援があって、鼻息も荒く再びロンドンの支店に電話。今度はガツンと言ってやる。それでもきかなかったら上司を出せと言ってやる!

「はい、○○航空ロンドン支店です」
と、さっきとは違う優しい物腰の声が。
「あのですね、先ほど…(云々かんぬん…)と言われたんですが、やっぱりそれはおかしいと思うんです! やっぱりチケットは変更してもらわないと!」
「そうですか、それはお困りでしょうね。大丈夫です、変更させていただきます」

  かっくん…。あれれ? 拍子抜けー。なんだか今回は話が全然違うじゃないの? 電話に出た人次第だっての?

「ぜ…是非お願いします」
「ただですね、明日の東京便は既に満席となっておりますので、キャンセル待ちとなりますがよろしいでしょうか? パリの空港に着いてから、カウンターにお申し込みください」
「いやー、乗り継ぎに1時間ぐらいしかないんですけど、そんなんで大丈夫でしょうか?」
「そうですか…。ではお待ちの方のリストに入れておきます。とりあえずカウンターにいらしてください。必ず乗れるという確証はございませんが、それでよろしければ」
「構いません、構いません。ちなみにダブリンからの便がちょっと遅れたらどうしましょう…?」
「そういう乗り継ぎ便のお客様がいらっしゃる旨を伝えておきます」

 いやー、至れり尽くせりですねえ。こうも対応が変わるもんでしょうか? お姉さん、ありがとう。これぞ日本の誇るサービスってもんでしょ。

 結局乗り継ぎも無事に済んで、翌日の便で日本に帰れたんですけど、このやりとりも疲れた疲れた。電話もうまくかからなくて何度もかけたし。しかし結果オーライ、自分を主張すると意外とうまくいくもんです。イヤ、しなければならない。特にこういうトラブルにおいてはとっても大事だということが分かりました。