trouble 5●反対車線で置き去り

 これもまた、途方に暮れた事件であります。

 trouble 4のチケット振り替え大作戦で疲れ果て、その日はダブリン市内に戻るのをやめて、空港近くのB&B(ベッド&ブレックファースト:朝食付き宿泊)に泊まろうと思いました。

 案内所に行って近場の宿を探してもらい、予約を入れてもらって一安心。さっそく行ってみるかぁ…とばかりに、そのB&Bの場所を尋ねました。
「そのB&Bはここからどれぐらい離れてるんですか?」
「1キロぐらいですよ。バスなら○○番に乗ればすぐ。タクシーならあっという間よ」

 かなんか言われて、ホンの1キロならタクシーじゃなくてバスで行っちゃうか、と考えたのです。

 その時の私のスーツケースは、1ヶ月間の旅行の成果で27キロの重さ。それをガタガタ押してバス乗り場へ。教えられた番号のバスを待って、念を入れて運転手さんにもB&Bのカードを見せ、
「このB&Bに一番近いバス停で降ろしてね」
とお願いもしました。

 いざ、バスが発車し、市内と空港を結ぶ幹線道路を快調に走り、あっという間に下りるべき停留所に。
 運転手さんに降ろされて、私はハッとしましたね。確かにB&Bは近い。すぐ近くに見えている。見えているけど、それは反対車線の向こう側。目の前には高速で走り去るたくさんの車たち。見渡せど見渡せど横断歩道はなし。ああ…、空はどこまでも青く、人気のない道路に(車気は異常にある)放り出された私は、そして途方に暮れる…。
 どないせいっちゅーんじゃー!!

 こんなところで降ろされたって、辿りつけんやないかいっ! それならそうと運転手さんもそう言ってくれればいいのに! 目の前にB&Bは見えているのに、それは蜃気楼の如く私をあざ笑うのでありました。

 遂に諦めて他の手だてを考えました。200メートルほど先に、ガソリンスタンドらしき建物を発見。とりあえずそこに行ってみようと思い、ガタガタの道をスーツケース転がしながらヒーヒー言ってようやくたどり着きました。ガソリンスタンドには2人ぐらい若い店員さんがいたので、そのうちの1人をつかまえました

「あのー、向こう側のB&Bに行きたいんですけど、この道、どこかで渡れますか? 実は、バス停下りたら反対車線だったんですよねぇ…」
「えーとね、この先、1キロぐらいのところにジャンクションがあるから、そこで向こう側に渡れるよ」
「えっ!? 1キロも先? そんな…(茫然自失)」

 この悪道を27キロのスーツケース引いて1キロも歩いて道を渡って、それからまた1キロ戻るってか? あまりの苦行っぷりにくらくらしていた私に、その青年は言いました。
「向こう側に行きたいの? それなら車で送ってあげようか?」

 う〜む、地獄に仏とはまさにこのこと。若干ながら、見知らぬ外国の土地でなんかされたらどうしよう?と思わないでもなかったのですが、様々な状況を鑑み、二つ返事で
「Thank you!」
でしたな。

 その仏様のような青年は車のトランクにスーツケースを乗せ、くだんのジャンクションまで行き、Uターンして反対車線のB&Bの私道の前まで送ってくれたのでした。あまりのうれしさに、失礼かなーとも思いつつもチップ程度のお金を渡そうとしたんですけど、

「ノーノー! そんなつもりじゃないから。じゃあ、気をつけてね!」
と彼は、颯爽と去っていったのでありました。おお、すがすがしすぎる青年よ、私はいまだに感謝の念が消え去らないぞよ。ちょっとでも疑ったりなんかしてすまなかった!

 アイルランドの人はみんなホスピタリティーがあって本当に親切でした。あらゆる場面で私を助けてくれました。…私が童顔すぎて、「こんなこどもが一人で外国旅行を?」と同情されたのかもしれないけど。