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積み重ね型BHの創作とその特徴
まず、1989年に製作した「超・究極BH」(候補) I 世の音道スタイル(補強部分を除いた断面図)を見て戴きましょう。
このスタイルの最大の特徴は、ユニットのすぐ後に、スロートと平行して空気室が続いていることです。この空気室の配置を発見することにより、積み重ね型というデザインを創作することができました。
マルチウェイスピーカーでは、ウーファーのハコの上にスコーカーのハコを重ねる(そのまた上にトィーター)という手法は珍しいものではありませんが、バックロードホーンスピーカーでは、積み重ね型の先例を知りません(ご存じの方はお知らせ願います)。 世の中には、恐ろしく記憶力の優れた方がいるものです。「オメガの会」の岩田さん(
投稿・独創SP のページに作品を発表されています) から、
「この週間FMの記事には表紙がないので、およその時期しか分かりませんが、 D−7 II が発表されるより前で、1978年の9月頃ではないかと思います。 当時、長岡鉄男氏と井上良治氏が交互にクラフトコーナーを担当し、井上氏がバックロードを発表したのは大変珍しい事でした。その意味で私は覚えていたのですが −−−− 」 との、お手紙と共に、その記事のコピーを戴きました。 井上先生の記事のタイトルは 「10cmとは思えぬド迫力 PSALM (パーフェクト・セパレート・アコースティック・ロード・モデル)」 で、サブタイトルに 「ハイクラスになるとセパレート化が進む」 があります。 そのBHは、ユニットに4A−60を使用し、確かに、二段重ねですが、 全体の外観は、CW型のBHと同様に直方体で、サイズ(mm)は、 H:W:D=664:636:368 で、上段のバッフル面積は、 H*W=14.6*63.6=929cm^2 です。 続いて、やはり、岩田さんからの知らせです。 「積み重ねバックロードの件ですが、長岡氏のD−201をご存知でしょうか? 恥ずかしながら、つい先日、このD−201が積み重ねのBHだと気がつきました。 型番と設計図はずっと前から手元にあったのですが、全く気づきませんでした。 初出は stereo の83年6月号で、最近出版された、 「長岡鉄男のオリジナル・スピーカー設計術(4) こんなスピーカー見たことない図面集編 III」 (音楽之友社) に出ていました。 長岡氏にとっては後にも先にも、これだけだろうと思いますが(たぶん)、 私がステレオからもっとも遠ざかっていた頃のものなので、この本以上のことは全く分かりません。 一度見て下さい。取り急ぎ、お知らせいたします。」 そこで、早速、国会図書館で原著をコピーしてきました。 長岡先生の原著のタイトルは、 「セパレート型ワイドレンジ設計 新案バックロードホーンD−201」 で、主な狙いは、 * 大型で複雑な構造になるので、上下2分割方式の構造とする。 * 全高が高くなるので、トゥイターは天板にのせず、バッフルマウントとする。 * バッフル交換方式とし、各種の20cm、トゥイターが使える汎用設計とする。 などです。 このBHの音道スタイルは、完全なCW型で、サイズは、 H:W:D=1050:330:450 で、上段のバッフル面積は、 H*W=45*33=1485cm^2 です。 両先生の作品は、上段の折り返しが、共に、180度3回であること、および、下段の音道スタイルが一致することから、長岡先生の作品が井上先生のそれから影響を受けていることを否めないでしょう。 両先生がセパレート型BHを発表された当時は、点音源重視のコンセプトはないらしく、B&W社のNautilus 801 のような積み重ねスタイル、すなわち、バッフル面積の最小化を意図したスタイル、を考案するには至らなかったのでしょう。 いずれ、別の機会に、より詳しく紹介したいと思います。 次に、D-55と「超・究極BH」(候補) I 世の主なスペックを比較します。
(注1) 候補 I 世の 上段の幅:28.2cm、中段の幅:34.2cm
(注2) ユニット部分を含む (注3) 各音道の中心直線の長さの合計 (注4) サブロク(21mm) 積み重ね型BHの特長が、上の表から、示唆されます。
 D−55の音道の幅は36cmですが、候補 I 世では、上段が24cm、中段が30cm、下段が36cmです。候補 I 世の各音道の長さと断面積は、D−55の対応するそれぞれと近似させていますので、各音道の断面は、高さが増し、その扁平が少し改善されました。 また、ユニットセンター高も約10cmほど高くなり、長岡先生のいわれるベスト(90cm)に近づきました。 この新しい積み重ねスタイルは、スワン型で、そのヘッドとネックの後方の空間も活用したスタイルに相当しています。 注目のバッフル面積は、D−55のそれの約半分になっており、スペースファクターも、次の正面図(同倍率縮小)を見ても、スリムで背が高く、改善されていることを実感できます。
「面積を固定して、長方形を正方形に近づけると、それを囲む直線の長さの和は小さくなる」という定理があります。
候補 I 世では、音道の断面がが正方形に近づいたため、その4辺の和が小さくなり、その結果、板取りをサブロク4枚に納めることができました。   最後に、肝心の音ですが、その当時の環境では、ダイナミック大賞部門賞を受けたD−77がお嫁に行くことになりました。 残念ながら、D−55の音を聴く機会がないままここまできており、構造からみて、I 世の素質を信じつつも、依然として「候補」のままです。   1997年、「これはオレの部屋だ」と占有できる、二重ガラスで遮音されたスペース(4m X 6m)を確保しました。 すぐに、丸形フレームのFE208Sに適応した(候補) II 世が誕生しましたが、これには特記すべきことが少ないので省略します。 続いて、2000年、FE208ESで30Hzまでフラットに再生することを目的とする候補III世が誕生しました。   候補III世については、D−58ESと対比しながら、次のページで説明しましょう。
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